SAPインスタンス構成

SAP Netweaverベース(SAP S/4HANA以降はABAP Platformベース)のSAPシステムにおけるインスタンスについて説明します。
SAPシステムでは、主に以下のインスタンスが存在します。

Primary Application Server Instance (PAS)　

SAPシステム内でユーザーからのオンライン要求、バックグラウンド要求を処理するインスタンス。
実際にデータベースに対して更新、削除、変更、参照などの処理を実行します。
複数のワークプロセス(ダイアログ、バックグラウンド、更新、スプール)およびGW、ICM、IGS(※)のプロセスで構成されています。
1つのSAPシステム内で1インスタンスのみ存在可能となります。

※
GW…SAPゲートウェイ。SAPシステム内でのワークプロセス間の通信や外部のプログラム(OSコマンドなど)間の通信を行うプロセス。
ICM…インターネット通信マネージャ。HTTP(S)、SMTPを使用したSAPシステムと外部との間の通信を管理するプロセス。
IGS…インターネットグラフィックサービス。SAPシステムのデータまたは別のソースデータをグラフィック/非グラフィックに出力するためのプロセス。

Additional Application Server Instance (AAS)

アプリケーションサーバを追加する場合にインストールされるインスタンス。
PASと同じ機能を持ちます。

ABAP Central Services Instance (ASCS) / Central Services Instance (SCS)

SAPシステム内のロック管理を行うエンキューサーバと、SAPシステムへのログオン時の負荷分散、アプリケーションサーバ(PAS、AAS)間の通信の管理を行うメッセージサーバで構成されたインスタンス。
1つのSAPシステム内で1インスタンスのみ存在可能となります。
SAP Netweaver ABAPベースのシステムでは、ABAP Central Services Instance (ASCS)が使用されます。
SAP Netweaver JAVAベースのシステムでは、Central Services Instance (SCS)が使用されます。

Enqueue Replication Server Instance(ERS)

ASCS/SCSのエンキューサーバの高可用性ソリューションで必要となるインスタンス。
エンキューレプリケーションサーバはASCS/SCSのエンキューサーバのロック情報(ロックテーブル)を複製したロック情報(レプリケーションテーブル)を持ちます。
エンキューサーバのロックテーブルに変更が発生すると、エンキューレプリケーションサーバのレプリケーションテーブルに変更情報が複製されます。
エンキューサーバに障害が発生してロックテーブル内のロック情報が消失すると、エンキューレプリケーションサーバのレプリケーションテーブルからロック情報を復元させます。
1つのSAPシステム内で1インスタンスのみ存在可能となります。

次にSAPシステムにおけるインスタンス構成を説明します。

■標準システム構成(Standard System)

SAPシステムにおける標準的なインスタンス構成。
SAPアプリケーション(ASCS/SCS、PAS)とデータベースが1つのサーバで構成されたインスタン構成。

※SAPアプリケーションとデータベースを別々のサーバで構成することも可能

SAP HANAデータベースを使用する場合は、SAPアプリケーション(ASCS、PAS)とSAP HANAを個別のサーバで構成することが推奨されています。
サーバを追加してAdditional Application Server Instance(AAS)を実行することで、処理を分散させることができます。

■分散システム構成(Distributed System)

ASCS/SCS、PAS、DBをそれぞれ個別のサーバで構成するインスタンス構成。
ASCS/SCS、DBは単一障害点(SPOF)となるためH/Wレベルで冗長化することで耐障害性を向上させることが可能となります。
サーバを追加してAdditional Application Server Instance(AAS)を実行することで、処理を分散させることができます。

■高可用性システム構成(High Availability System)

ASCS/SCS、PAS、DBを分散した構成に、Enqueue Replication Server Instance(ERS)を追加するインスタンス構成。
ASCS/SCSのエンキューサーバで管理しているロック情報をERSにレプリケートすることで、ASCS/SCSのアプリケーションレベルでの高可用性を実現する構成となります。
ASCS/SCS、ERSを実行しているサーバをMicrosoft社のMicrosoft Failover ClusterやRedHat LinuxのPacemaker Clusterなどで冗長化することでASCS/SCS、ERSの耐障害性を向上させることができます。