2026.10.13

SAP Automation PilotによるSAP HANA Cloudの自動起動・停止とコスト最適化

■はじめに

SAP HANA Cloudは、SAP Business Technology Platform(SAP BTP)上で提供されるデータベースサービスであり、利用するリソース量や稼働時間に応じて課金されます。そのため、業務時間外にインスタンスを起動したままにしていると、不要なコストが継続的に発生してしまいます。多くのシステムでは、夜間や休日など実際には利用されない時間帯が存在するため、これらの時間帯にSAP HANA Cloudを停止することで運用コストの削減が可能です。
一方で、日々の起動・停止を手動で実施する運用は負荷が高く、作業漏れや操作ミスといったリスクも伴います。
SAP HANA Cloudの起動・停止は、SAP BTP上のCloud Foundry環境(SAP BTPのアプリケーション実行環境)をコマンドラインから操作するためのツールであるSAP Cloud Foundry Command Line Interface(CF CLI)を利用することで自動化することが可能です。CF CLIをスクリプトと組み合わせることで、SAP BTP上で提供されるSAP HANA Cloudの起動・停止などの管理操作を自動化することができます。ただし、CF CLIで自動化する場合は、実行環境やスクリプトの準備に加え、認証情報の管理やスケジュール制御など、複数の要素を個別に構築する必要があります。
このような課題に対し、SAP BTP上で提供される運用自動化サービスであるSAP Automation Pilotを利用することで、これらの処理をSAP BTP上の単一サービスで統合的に管理でき、シンプルな運用自動化を実現できます。
そこで本記事では、CF CLIによる自動化との比較を交えながら、SAP Automation Pilotを活用し、SAP HANA Cloudの起動および停止を自動化した事例について、その構成と効果を紹介します。

■CF CLIとSAP Automation Pilotの構成比較

SAP HANA Cloudの起動・停止を自動化する方法には、CF CLIを用いる方法とSAP Automation Pilotを利用する方法があります。
両者の主な違いを比較すると以下の通りです。

以下にそれぞれの構成を示します。

■SAP Automation Pilotの構成と実装のポイント

本事例では、SAP BTP上のサービスのみを組み合わせたシンプルな構成で自動化を実現しています。これにより、外部ツールや個別開発を行うことなく、効率的な運用自動化が可能となります。
本構成のポイントは以下の通りです。

POINT①:標準カタログの活用

SAP Automation Pilotには、あらかじめ用意された操作メニューの「カタログ」が存在します。本事例では「dblm-sapcp」という標準カタログを利用しており、このカタログにはSAP HANA Cloudの起動や停止といった操作があらかじめ定義されています。これにより、個別に処理を開発することなく、標準機能として操作を利用することができます。

POINT②:コマンドによる操作の実行

カタログの中には、個々の操作単位として「コマンド」が用意されています。
本事例では以下のコマンドを利用しています。

– TriggerStartHanaCloudInstance(インスタンス起動)

– TriggerStopHanaCloudInstance(インスタンス停止)

これらのコマンドを実行することで、対象となるSAP HANA Cloud(データベース)の起動および停止を行うことができます。

POINT③:Input Keysによる対象指定

コマンドを実行する際には、Input Keys(コマンドに渡す入力パラメータ)を設定します。
Input Keysを利用することで、対象となるSAP HANA Cloudインスタンス(データベースの識別情報)を指定することができ、複数のデータベースが存在する環境でも適切に対象を制御することが可能です。

POINT④:スケジュールによる自動実行

SAP Automation Pilotにはスケジュール機能があり、コマンドを指定した時刻に自動実行することができます。
本事例では、業務開始前にインスタンスを起動し、業務終了後に停止する設定とすることで、日々の運用を自動化しています。
また、SAP Automation Pilotは標準カタログやスケジュール機能を利用できるため、個別開発をほとんど必要としません。
そのため、本事例ではSAPドキュメントの内容を把握した状態で、有効化からカタログ選定、Input Keys設定、スケジュール設定、および動作確認までをおおむね2〜3時間程度で実施することができました。
CF CLIベースで自動化を構築する場合は、実行環境の準備やスクリプト作成、認証情報管理などが必要となりますが、SAP Automation Pilotを利用することで比較的短期間で自動化環境を構築できる点もメリットの一つです。

■導入効果

本取り組みにより、運用負荷の軽減およびコスト最適化を実現しました。

① 運用負荷軽減

SAP HANA Cloudインスタンスの起動・停止を手動で運用する場合、日々のオペレーション作業が発生し、対応漏れや操作ミスといったリスクも伴います。SAP Automation Pilotのスケジュール機能を活用することで、これらの処理を定刻で自動実行できるようになり、運用作業の効率化および安定化につながっています。

② コスト最適化

稼働時間を制御することでコスト削減効果も得られました。SAP HANA Cloudは、利用するリソース構成(CPU・メモリ・ストレージ)と稼働時間に応じて課金されます。特に、CPUやメモリはインスタンスの稼働時間に応じて課金される一方で、ストレージについてはインスタンス停止中も確保している限り課金対象となります。そのため、業務時間外にインスタンスを停止することで、CPUおよびメモリに関する課金を抑え、コストを最適化することが可能です。

SAP BTPでは、サービス利用料金を算出するための課金単位としてCU(Capacity Unit)が用いられています。
SAP BTPのサービスごとにCUの算出方法は異なり、SAP HANA CloudではCPU・メモリ・ストレージなどのリソース利用量を基にCUが算出されます。CUの値が大きいほど利用料金も高くなります。
本試算では、SAP HANA Cloudデータベースの一例について、平日8:00〜22:00の稼働(1日14時間×営業日、土日は停止)を前提とし、フル稼働(24時間×30日)とのコスト比較を行います。なお、CPUおよびメモリは稼働時間に応じて課金される一方で、ストレージは停止中も課金されるため、コスト削減率は単純な稼働時間の割合とは一致しません。
以下は、SAP HANA Cloudデータベースの一例の構成および2026年6月時点の価格情報を基にした試算です。
※ 本試算はSAP HANA Cloud Capacity Unit Estimator(試算ツール)を基に算出しています。
※ https://estimator.tools.hana-tooling.ingress.orchestration.prod-eu10.hanacloud.ondemand.com/hcs-calc/sap/hana/estimator/index.html

– SAP HANA Cloudデータベース構成例

– SAP HANA Cloud月額コスト比較

– 削減効果
フル稼働と比較した場合、約58%のコスト削減効果が見込まれます。また、年間では約70,000 EUR(約1,100万円規模)の削減効果が期待されます。
なお、SAP Automation Pilot自体にも費用が発生し、APIコール数に応じた課金(1,000回あたり約3.81 EUR、2026年6月時点)となりますが、本事例のような利用頻度では影響は限定的です。また、本試算は単一環境を対象としていますが、開発・検証環境など複数の環境に適用した場合、削減効果はさらに大きくなることが見込まれます。

■まとめ

本記事では、SAP Automation Pilotを活用し、SAP HANA Cloudの起動および停止を自動化した事例を紹介しました。
CF CLIによる自動化も実現可能ですが、実行環境やスクリプト、認証情報管理、スケジュールといった要素を個別に構築・運用する必要があります。一方、SAP Automation Pilotを利用することで、これらをSAP BTP上で統合的に管理でき、シンプルな運用自動化を実現できます。SAP BTPのサービスを組み合わせることで、シンプルかつ効果的な運用改善が可能であり、本事例はその一例として活用できる内容となります。

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